《氾濫》は、1974年に開催された「15人の写真家」展(東京国立近代美術館)のために中平卓馬が制作・出品した、48点のカラー写真からなる横方向6メートル、縦方向1.6メートルにおよぶインスタレーション作品である。本書ではこれまで展示でしか見る機会のなかった《氾濫》の全貌を初めて伝える。壁を這う蔦、路上のマンホール、大型トラックのタイヤ、ガラス越しにみる水槽の鮫、地下鉄構内……《氾濫》の写真群は、写真家が日々遭遇し捕獲した都市の断片 —— それらは情報と商品、そして事物が氾濫する都市空間の無気味な裂け目でもあるだろう。本書では、インスタレーションを写真集の制約の中で見せるために、展示における作品配置を厳密に再現したレイアウトが試みられ、複数のイメージがページ上で干渉し合う。また、フランツ・K・プリチャードは本書収録のエッセイで、中平が1973年の「なぜ、植物図鑑か」で提示した「図鑑」の構想と、作品《氾濫》の関係を詳細に辿りながら、写真の実践と理論を常に両翼に携えて活動した中平の模索を丹念に論じている。翻訳は倉石信乃。《氾濫》は観者としてのわれわれに、断片と表面と残滓の一見ランダムな分布による相互作用を経験するよう強いる。だがそうするうちに、われわれは不完全な全体における諸部分が、未分化のまま並置されているのを感知するのである。このことは、中平が「なぜ、 植物図鑑か」で示した「図鑑」という形式の定義を思い起こさせるだろう。(プリチャードによる本書収録エッセイより) 64p 36x26cm ソフトカバー 2018 Eng/Jap
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