2013年の5月に初めてダッカを訪れた。その時は持参したモノクロフィルムを撮り切ってしまったので、現地でネガカラーフィルムを調達し、撮影したものをそこで現像したところ乾燥が不十分でフィルムが汚れてしまった。雨期に入ると湿気が高くて洗濯物やフィルムなどよく乾かないのだ。フィルムが汚れたのでもう使えない、と帰国して1年ほど放っておいたが、これもダッカだ、と思えるようになり、今年(2015年)の春、その汚れたフィルムもそのまま使って写真集『DHAKA』にまとめた。本ができても、保留したままの案件を抱えているようで、ダッカのことが頭から離れず、2015年4月の終わりに再び飛行機に乗った。2年の時が流れたが、街の様子はあまり変わっていなかった。工事中だった道路が完成しており、ほとんどなかった信号機が大通りに少し増えたくらいの変化で街の印象は前回とほぼ同じだった。私を驚かせた子供たちの歓声は健在だった。外輪船も馬車も活躍していた。だが、気になっていた人たちには会えなかった。道路の端にかがみこんで側溝の黄色く淀んだ水を飲もうとした女の人、私が宿泊していたホテルの下のバスターミナルの片隅で裸足で寝ていた女の人、記念写真を差し出しても寂しそうな目をして受け取ろうとしなかった痩せた少年…。(中略)バングラデシュはアジアの中でも経済的に貧しい国であり、そのしわ寄せは底辺に集中的に向かい、その中でもとくに身寄りのない女性やこどもに向かう。貧しくとも、正直でやさしい人がもっと大切にされる世の中はこないものか。
しかし、ダッカの街は、裸のままの人間らしさに溢れており活気があった。金銭本位で、ややもすると人がその下に置かれ、人間性が歪むようなところではなかった。これまで私が歩いてきたどの都市よりも、よそよそしくもなく委縮もしておらずフレンドリーな人が多かった。
― 山内道雄「ダッカを歩く」より
208p 28x22cm 115photo ソフトカバー Eng/Jap 2015
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