アメリカ人フォトグラファー、トマス・プライヤー(Thomas Prior)の作品集。タイトルに用いられている「アーメン・ブレイク(AMEN BREAK)」とは、20世紀の音楽の流れを変えた類稀な4小節のドラムソロの呼び名である。あるソウルバンドのレコードのB面に収録されていた7秒間のブレイクは、1980年代にヒップホップが台頭するともに広くサンプリングされ、ドラムンベースやジャングルの定番のリズムになった。様々なジャンルの曲に何度も使用された、史上最もサンプリングされた音源の一つと言われている。本書『AMEN BREAK』は、2020年とニューヨークが静止していた瞬間を見つめた作品。ストリートに根ざしたドキュメンタリー写真を撮り続けてきた作者は、かつては溢れんばかりの人でにぎわっていた街の商業地区を歩き回り、個人的なものから政治的なものまで日常生活の基盤となっていた様々な概念が覆され、健康、福祉、人種、公民権、経済、最終的には未来をめぐるグローバルな対話が始まった瞬間を吸収していった。作者は「AMEN BREAK」を可視化することによって、ジョージ・フロイド氏殺害事件、マスク着用の選択、一国の指導者による虚偽の発言といった特異な出来事、つまり歴史を構成しているビートやリズムがどのようにして未来に波紋を投げかけることができるのか問いかけている。ここに収められたイメージは、2020年の騒動と不確実性を繊細に描き出している。静けさと沈黙が絶妙に交じり合い、その表面化で高まる緊張感や感情、孤独が伝わってくる。渦巻きながら勢いよく流れていた都市が、一見平和そうな顔をして停止する。空っぽの窓には不在伝票がいくつも貼り付けられ、黄ばんだ新聞紙が階段に散らばり、裸のマネキンが生々しい記憶のままの経済的・社会的混乱を見つめている。こうした小さな不在の痕跡のすぐそばに、略奪の被害を受けた店、政治的なポスター、抗議デモの爪痕、仮設の遺体安置所、そして日常生活に新しい秩序をもたらしたソーシャルディスタンスの仕組みが存在している。本作はタブロイドフォーマットを採用し、人類の歴史に刻まれる特別な一年となった2020年を振り返り、次になにが起こるのかを考察する。この作品集の売上の一部は、必要とする全ての人に無料で食物を提供するニューヨーク市最大かつ最も広いリーチを誇る食糧支援団体「9 Million Reasons」に寄付される。さらに、ある民間のスポンサーの厚意により、この金額と同額が追加で寄付されることになっている。
76p 40x28cm ソフトカバー 2021 English.
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