「Y/プロジェクト(Y/Project)」と「ディーゼル(Diesel)」のクリエイティブディレクターを務め、パリを拠点に活動するベルギー人デザイナー、グレン・マーティンスをゲストキュレーターとして迎えた『A Magazine Curated By』の第27号。2024年、創刊20周年を迎える『A Magazine Curated By』は、創業の地であるベルギーに立ち返る。
マーティンスの作品はフランドル地方の巨匠から引用されたゴシックなイメージに満ちているが、しばしば現代的なデジタル技術に基づいたレンズを通して再構築される。本号では、歴史的かつ現代的な要素のバランスのよい組み合わせが中心的な役割を果たしている。マーティンスの故郷であるベルギー・ブルージュで撮影された豊富なポートフォリオは、このテーマを踏襲している。フランス人フォトグラファーのアルノー・ラジュニとスタイリストのウルシナ・ギジが、ベルギーを代表するモデルのアヌーク・ルペール、デルフィーヌ・バフォー、キム・ピアーズ、アン・カトリーヌ・ラクロワ、ロース・ファン・ボストラーテンらを起用し、「Y/プロジェクト」の10年間の軌跡を中世の町で撮影した。ライターのニコール・デマルコによるエッセイでは、ラファエル前派の美術モデルであり詩人、美術家であるエリザベス・シッダルを通じてミューズの魅力を解剖し、歴史上の赤毛のミューズたちがいかにシッダルのおかげで「イット・ガール」になったかを探る。フォトグラファーでありディレクター、映像監督のジョーダン・ヘミングウェイとスタイリストのロビー・スペンサーは、シッダルのような女性に影響を受け、ヘア・アーティストのシンディア・ハーヴェイが手がけた最長のヘア・エクステを撮影した。この考察の延長線上で、オランダ人アーティスト、ポール・コイカーは、長年のミューズである人物を撮影し、粘土や形状を用いて体の形を表現しており、そのことで被写体は彫刻と化している。同様に、ベルギー人メイクアップアーティストのインゲ・グロニャードと 写真家リン・ゾングによる「カルトブランシュ(白紙委任状)」ビューティーシリーズは、顔をキャンバスに変える。マーティンスは、自身のデザインを、身体の限界を超えたフレームを作る手段として捉えている。また、建築への考えを拡げると、オランダ人建築家レム・コールハース率いる建築設計事務所OMAのメンバーであるミシェル・デンや「ANY NYC」のマイケル・エイベルといった建築家たちが、教会や礼拝堂を建設する人間の必要性と信仰との関係を熟考し、そのつながりを探求している。最後に、2023年にニューヨークのホイットニー美術館で回顧展を開いたアメリカ人アーティストのジョッシュ・クラインが、「ディーゼル」のデニムを最も「アメリカン」な商品として探求し、「ディープフェイク」やAIツールなどのテクノロジーを使用し、見慣れたものと見慣れないものを作り出すマーティンスの布メディアの世界へのアプローチを、自身初のファッション・ストーリーで表現している。200p 30x23cm ソフトカバー 2024 English
[グレン・マーティンス(Glenn Martens)]
2012年に自身の名を冠したブランドを設立したグレン・マーティンスは、そのわずか1年後、前衛的なパリのファッションブランド「Y/プロジェクト」の創業デザイナーが逝去した後、クリエイティブ・ディレクターに指名された。それから10年の間に、マーティンスはストリートとレディ・トゥ・ウェアを組み合わせたコンセプチュアルなスタイルで、伝統的なパターンメイキングの枠を超えた現代的なシルエットと、完璧な生地開発を融合させ、忠実なファンコミュニティを築いてきた。「Y/プロジェクト」のコレクション全体にデニムを使用するというマーティンスの特別な関心は、OTBグループの創業者であり「ディーゼル」の創始者であるレンツォ・ロッソの興味をかき立て、ロッソはこの若手デザイナーを2020年に「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターに抜擢した。就任以来、マーティンスはデニムに特化したブランドを再活性化させ、ディーゼルを近年最も話題のファッションブランドにしただけでなく、デニム技術の追求を極限まで押し進めた。2022年には、ジャンポール・ゴルチエがマーティンスをゲストデザイナーとして招聘し、オートクチュールコレクションを発表、同年に「Y/プロジェクト」のレディ・トゥ・ウェアのコラボレーションも行った。この2つのコレクションは、アイコニックなメゾンとその特徴的なシルエットを新しい世代に向けて再出発させるのに貢献した。
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