香港出身のフォトグラファー、ウィン・シャ(夏永康)の作品集。作者にとって本作は、アメリカから刊行される初めてのモノグラフとなる。作者は写真家として活動し始めた頃、上海生まれ香港育ちの映画監督であるウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』(1997年)や『花様年華』(2000年)などの映画作品にスチル・カメラマンとして迎え入れられた。映画界の巨匠であるカーウァイの撮影現場に入るという貴重な経験を通じ、トニー・レオン、レスリー・チャン、マギー・チャン、コン・リーといった有名俳優らが撮影の合間に見せる役を離れた自然体に近い姿を捉えた。本書はスターを写した舞台裏のポートレイトを中心に、撮影の移動中に車や飛行場から捉えた風景、雨に濡れた都会の街のスナップショット、旅先で出会った自然や街並みの中での私的な写真、室内での一枚、また加えてコマーシャル撮影でのベストショットなどが散りばめられている。本作品集は、雄弁なストーリーテラーであり思慮深い観察者である作者の表現力を顕著に物語る。香港は「眩いネオンの光と混沌とした電気の鼓動に溢れた謎めいた異国」であると、長く欧米諸国の人々の想像力を掻き立ててきた。しかし、作者はより個人的であり瞑想的な香港の姿を露わにする。時がゆっくりと流れる中、静かな眼差しで捉え、儚い瞬間を写し出し、まるで距離を保ったところから人と人との関係の中で起きる機微な化学反応を探るように、繊細で直感的なアプローチを読者に見せている。幻想的な夢の中のような雰囲気が使用期限切れで露光されたフィルムに浮かび上がり、鮮やかな色彩のフラッシュで際立っている。カーウァイの映画作品の一番の理解者でありコラボレーターであるアートディレクターのウィリアム・チャンの言葉を借りると、本作は「一瞬の時の断片を巧みに捉えた秀作」である。本作を通し、作者の作品が持つ卓越したニュアンスと、作者の目を通して見た香港の豊かな歴史と文化が世に伝わることを願う。キュレーター、中国の現代美術を専門とする美術史家であり、中国の現代美術館グループ・OCAT Museum Groupの一つ、「OCAT Xi’an」の初代ディレクターを務めるカレン・スミスとの対談を収録。184p 30x21cm ソフトカバー 2024 English.
[ウィン・シャ(Wing Shya / 夏永康)]
1964年香港生まれ。カナダのエミリー・カー美術大学で美術を学んだのち香港に戻り、デザインスタジオ「Shya-la-la Workshop」を創設、数々の賞を受賞する。1997年、映画『ブエノスアイレス』にて、映画監督であるウォン・カーウァイより専属フォトグラファー兼グラフィックデザイナーとして指名される。その後、映画『花様年華』『愛の神、エロス』『2046』と、コラボレーションが続いた。 映画監督としても名を馳せているシャは、カレン・モク、ジャッキー・チュン、ヴァネッサ・メイなどのミュージシャンらとミュージックビデオでのコラボレーションを経て、2010年春、大ヒット映画『ホット・サマー・デイズ』で監督デビューを果たす。2011年秋に続編『ハッピーイヤーズ・イブ』を公開。また、2006年には美術に立ち返り、森アーツセンターギャラリーで個展「ウィン・シャ エキシビション」を開催した。その後ニューヨーク、イタリア、香港などで個展を開催。また、i-D(イギリス)やNumèro (フランス)など、世界各国の名だたるファッション誌やルイ・ヴィトン、マルタン・マルジェラなどのブランドのヴィジュアルも手がけている。(publisher's description)
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