頭山ゆう紀の「残された風景」は、亡き祖母の在宅介護の時間に撮影されたシリーズである。コロナ禍での介護の日々、ある閉ざされた状況のなか、近所に買い物に出るわずかな時間に切実な息抜きとして撮られた。瞬間の光と色が射す風景写真が並ぶ。一方、その合間に現れるモノクロ写真は、家から出られなくなった祖母の視線をイメージして撮影された。幻覚が見えるという祖母の視線に寄り添うように、部屋の窓から庭を撮った写真群。この二つの視点が混ざり合い、「残された風景」は編まれた。祖母の姿は一枚も写っていない。介護する側と介護される側との時間の違いが克明に表れる。残された写真は不在を告げるとともに、残された者にとって、祖母との対話を続けるよすがとなった。本書の表紙には、境界が揺らぐようにカラーとモノクロの写真が透けて見えている。頭山ゆう紀の最初の写真集『境界線13』(2008年)には、友人を亡くしたことへの喪失感が流れていた。写真を撮ることで息をし、喪失と向き合い、不在のひとを理解していく過程。いま『残された風景』も喪失を超え、人が人をケアすること、つづいていく対話へと開かれている。(publisher's Description) 176p 21x15cm ソフトカバー 2024 Japanese
[頭山ゆう紀 (Yuhki Touyama)]
1983年千葉県生まれ。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。生と死、時間や気配など目に見えないものを写真に捉える。自室の暗室でプリント作業をし、時間をかけて写真と向き合うことで時間の束や空気の粒子を立体的に表現する。主な出版物に『境界線13』(赤々舎 2008)、『さすらい』(abp 2008)、『THE HINOKI Yuhki Touyama 2016−2017』(THE HINOKI 2017)、『超国家主義−煩悶する青年とナショナリズム』(中島岳志 著、頭山ゆう紀 写真/筑摩書房 2018)がある。
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