写真家・ホンマタカシが2002年から近年までの間に撮影した111人の日本人のポートレイトを収録した写真集。プリツカー賞受賞建築家である磯崎新や、1968年から1970年にかけて発行された伝説的写真雑誌 『プロヴォーク(PROVOKE)』の共同発案・創刊人である中平卓馬など、作者にとって「メンター」である人物から受けた影響に敬意を表しながら、同時に現在も活躍するあらゆる世代の幅広い職業や人生経験を写し取り、ポートレイトという形で表現している。静けさの中から滲み出る強度と紛れもない清澄さを携え、現代日本における社会的かつ文化的構造を形成する「顔」が見せる日常的かつ非凡な相貌をじっくり見つめ、深く考察するよう我々を誘う。これまでの40年間、作者は様々な作品を生み出し、今日の日本の写真界で最も影響力のある人物の一人となった。『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(1998年、光琳社刊)における東京の郊外風景を追った初期の作品から、建築、自然、都市の歴史をコンセプチュアルに探った作品群まで、視覚文化における写真が持つ役割に常に挑み、拡張させ続けている。作者の影響は日本のみならず国外にも及び、展覧会や出版物は、アイデンティティ、場所、そして写真集が物語る視覚言語の進化を取り巻く世界的な対話の発生や発展に貢献している。アウグスト・ザンダーの『Face of Our Time』(1929年)、アーヴィング・ペンの『Small Trades』(撮影・プリント:1950年〜1960年代、書籍化:2009年)、最近ではヴォルフガング・ティルマンスの『Portraits』(2002年)、リネケ・ダイクストラが思春期の少年少女を写したシリーズ、ポール・グラハムの『End of an Age』(1999年)など、画期的とされた代表作と呼応しながら、社会的な部分で関与を見せるポートレイトが築いてきた豊かな伝統の顔ぶれに本書もまた加わる。日本では、東松照明が戦後の日常生活に密着したポートレイト群、昭和を生きた日本の巨匠たちを記録した上田義彦の『ポルトレ(PORTRAIT)』(2003年 / 普及版:2022年)、鬼海弘雄の『Asakusa Portraits』(2008年)、須田一成の『東京景』(2013年)、渡辺克巳の『新宿群盗伝 66/73』(1973年)などが、東京に生きる匿名の人々の個性と静かな貫禄をとらえている。本書が特徴とするのは、文化的なアイコンとされる面々に対して向けられるのと同じように、注意と敬意を深く払って撮影された一般の一個人たちにも意図的に焦点を当てていることである。このポートレイト群は、主に都市部を中心に数々の見慣れた場所で撮影されており、その場所が被写体の心理的な深みを露わにするスポットライトのような質を持ちあわせている。そのアプローチは、東松照明の肖像ほどあからさまに政治的ではなく、鬼海弘雄や渡辺克巳よりも日本人を広くとらえ、上田義彦よりも人間性が露わになっている。作者のポートレイトは、小細工や演出から解き放ち、人々をありのままに観察したいという願望と共感によって導かれている。その結果、日本人のアイデンティティをより包括的でニュアンス豊かな視覚的表現で写し取り、国内、国外いずれからも覗き見るレンズの視野を拡げることとなった。日本は、その美学、伝統、技術革新によって、アメリカ、ヨーロッパ諸国のみならず、世界中の人々を魅了してきた。しかし日本人の生活の実態は、しばしば理想化され、誤解され、見逃されてもいた。本書は、一人の日本人写真家が自らの作品を通して、直接かつ意図的、内省的に語る場をもたらし、地に足のついた本物の現代日本の肖像を提示するという点で、とりわけ意義深い一作となっている。体系的でありながら、深く私的でもあるこの作品集は、長く続いていく作者のキャリアにおいて静寂でありながら力強い道標となるものであり、同時に今日の日本を形作ってきた人々を写すポートレイトとしては、人々の心に深く迫り、時宜にかなったなアーカイブとなるであろう。232p 28x29cmハードカバー 2025 English
*9月入荷予定。
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