東京の質素なアパートのあちこちを、猫がふらりと歩き、腰を下ろし、気ままにくつろいでいる。まわりの空気にすっかり溶け込んで、ただ日々を過ごしているだけ。ある写真では、鉢植えに囲まれたベランダで朝の光を細めて浴びながら、静かに横たわっている。別の写真では、風呂の縁に危うくバランスをとっていたり、寝袋の下にもぐりこんでいたり、段ボール箱で遊んだり、開いた傘の下に隠れていたりする。ところどころに、このアパートのもう一人の住人の気配が写り込んでいる。膝、足、金髪のかたまり、顔の半分。彼の生活や創作の痕跡もちらほら見える。プチプチに包まれた額入りの写真が壁にもたれかけていたり、エフェクターのコードがカーペットの上にカラフルな星座のように広がっていたり。ホンマタカシの写真には、独特の空気とエネルギーがあると、これまで多くの人が語ってきた。彼の撮り方はとても軽やかで、被写体に対する共感がさりげなく、気づけばその世界に自分も溶け込んでしまう。本書に収められた写真も、その例外ではない。気取ったところや完璧さを求める気配はなく、日記のように、日常の一瞬を切り取っている。見る者は、写真の細部をじっくり観察するというより、その空気感の中に入り込んでいく。見ることと同じくらい、「感じる」ことが大切になってくる。タイトルの『This Is Not My Cat(これは私の猫ではない)』には、いくつかの意味が込められているように思える。ホンマの代表作『Tokyo and My Daughter』では、写っている少女が実の娘ではなかったという事実が、作品に独特のズレをもたらしていた。今回もまた、彼自身の猫が、まるで他人の猫のように描かれている。あるいは、猫という存在の独立性は、そもそも誰かの所有に収まるものではないということかもしれない。猫は静かに、遊び、暮らし、私たちと共に生きている。でもその実、彼らは常に自分だけの世界を生きている。(publisher's description)80p 18x11cm ソフトカバー 2025 English
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