写真の空間、本の空間、そして身体の織りなす光景
作品の構想から10年、「石と桃」が一冊の本として刊行。ものの大小や遠近が現実と異なって見えたり、色覚・時間感覚に異常をきたすなど様々な症状が現れる「不思議の国のアリス症候群」。
十年前に症状の名を知った木村は写真表現を始めるのと同時期にこの症候群についての作品を作りたいと思うようになる。展示や私家版などを通してこれまで繰り返してきた数々の実験では、ときに写真の歴史とも交差しながら、その感覚を作品に宿すことを試みてきた。
タイトルである「石と桃」は、モノトーン調の硬いものと発色のよい柔らかいものとが混ざり合う、木村が日常的かつ突発的に見ているイメージの一つを言語化したものである。
当初、その実現不可能性から本という形ではまったく想定されていなかったシリーズは、3年間5度にわたる展示を経て、時々の身体と向き合い、あたらしい要素を受け入れていくなかで徐々に形を得ていった。本書では、空間と身体の関わり合い、感覚の混ざり合いが、本でしかできない試みを通して見事に結実している。見ることと、そこに含まれる謎が幾重にも息づく写真。感覚の変容が繰り返し呼び覚まされる構成や、蛍光ピンクの糸かがりなど作品そのものを体現するかのような造本設計。体積のような余白の白。一枚一枚のページを横に進んでいくだけでなく、縦にも奥にも眼差しが向かいながら、写真の空間、本の空間、そして身体が関わり合う独自の体験が立ち上がる。
緻密に設えられた空間でありながら、写真には、"その瞬間に出会ってしまう"スナップの質が静かに流れている。コントロールされた状況の中で、意図の外側からふいに立ち上がる光や気配。その"不可避の一瞬"を受けとめる姿勢が、木村の写真表現をスナップから今日へと連続させている。
"わかる"と"わからない"の境界を飛び越え、知覚や認識の差異そのものが静かに立ち上がってくる── そんなあたらしい経験をもたらしてくれる一冊。見ることの豊かさと謎めきを湛える写真集『石と桃』。その感覚が、それぞれの身体に静かに宿ることを願っている。(publisher's description) 96p 38x24cm ハードカバー 2025
掲載のイメージや情報は発売前のリリース情報に基づいて制作する場合があり現物と異なる際は現物を優先させて頂きます。
こちらはShelfのオンラインストアのページです。実店舗の在庫、扱い商品については店舗へ直接お問い合わせください。