現代写真を代表する作家のひとりである杉本博司は、写真という行為を通して、時間と知覚の関係を絶えず探り続けてきた。2026年4月11日から9月13日までロデーズのスラージュ美術館で開催される個展では、建築そのものの特異な空間性、そしてピエール・スラージュの作品との対話を通じて、光、黒の根源性、そして空間的かつ形而上学的な構造としての地平線といった共通の主題が掘り下げられる。同名の展覧会に合わせて刊行された本書は、古典和歌から借用された「本歌取り」の概念を手がかりに、杉本の仕事を読み解く。本歌取りとは、既存の作品を再訪し、その意味をずらし、再活性化する行為を指す。この再構築の原理によって、杉本の全作品群は変奏の体系として見えてくる。すなわち、時間の蓄積が像を消失へと向かわせる「劇場」シリーズ、風景を抽象的で非歴史的な構造へと還元する「海景」、光学的現象と視覚の限界を探る「オプティクス」など、いずれのイメージも既存の形式や知の体系との意識的な関係のうえに構築されている。本書には「劇場」「オペラハウス」「海景」といった代表的シリーズに加え、より近作の「Brush Impression」も収められている。このシリーズでは、写真から離れ、四十八点のドローイングによる多連画を通して書の身振りが探究される。収録された二本の論考──スラージュ美術館館長モード・マロン=ヴォジェヴォツキと美術史家セリーヌ・フレシューによるもの──は、杉本が写真を思考の媒体としてどのように扱っているかを読み解く。ここでのイメージは、あらかじめ存在する現実の痕跡というより、むしろ精神的構築物として立ち現れる。蓄積、持続、あるいは消耗としての時間が、固有の素材として扱われている。(publisher's description)
104p 20x28cm ハードカバー 2026 English
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