1997年に刊行された写真集『生きている』は、佐内正史の出発点に位置しながら、1990年代以降の日本の写真表現に大きな影響を与えた一冊です。静かに、しかし確かな衝撃をもって受け止められたこの写真集が、30年の時を経て復刊されます。本号ではこの節目にあわせ、佐内正史の特集を組みました。岡本太郎の絵の複写と全国に点在するオブジェを訪ね歩く「雷写」、近作「Strong Memory」。それらを往還する「オレの素」を掲載します。
岡本太郎は、「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」と語りました。そして岡本は、美を人が自由に鑑賞する対象ではなく、人に迫り、逃れがたく作用する力として捉え、「美の呪力」という言葉でそれを表しました。整えるのではなく、ぶつかり続けること。その姿勢はいまもなお有効です。
佐内の写真に通底するピュアな感性と、世界への素朴なまなざし。それは、戦争や災害、気候変動、AIの急速な発展など、先行きが見通せず、将来の予測が困難な時代のなかで、いま再び、ひとつの拠りどころとして立ち上がってきます。過剰な情報や均質化されたイメージのあいだで見失われがちな、世界との距離を、あらためて問い直すものでもあります。
現実とイメージの境界が揺らぐ現在、写真は何を引き受けるのか。本号に収められた写真家たちの実践は、既存の形式や価値に回収されることなく、言葉以前にある不可視の現実を可視化しています。異なる時間や記憶、現実の断片が交差し、像として立ち現れてくる。過去は現在において更新され、現在は未来へと開かれていく。その重なりを引き受けることが、本誌の役割であると考えています。
村上仁一
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